切屑堂 kirikuzudo

ブログ: 2020/02/11 アルミ角パイプ同士のねじ締結について

先日、  「ばね座金はあんまし意味ないよね、という話の   リンクは定期的に貼っていきたい。」 というTweetをしたら、けっこう遠方までRTされたので、 意外とボルト締結体のベーシックな力学的構成は知られてないんだな、 という気持ちになりました。 ちなみに「ばね座金はあんまし意味ないよね」という話のリンクは下記です。  「鍋屋バイテック ねじのおはなし 第4話」   https://www.nbk1560.com/products/specialscrew/nedzicom/topics/04_washer/ まあ、これは鋼ボルトで鋼材を締結する前提での話なので、 鋼ボルトでアルミや樹脂を締結するような場合はまた違う話になるんですよね。 で、ロボコンされていた方から 「角パイプで適正な軸力出せない場合は  どうするのが答えなんでしょうね?」 というご質問をいただきました。 おそらくアルミの角パイプだろうなあ、ということで、 ちょっとそれについて書いてみます。 アルミ角パイプ同士の締結はこんなものを想定しています。 <図1> 25角とかの細いアルミ角パイプなどでは角パイプのセンタに穴をあけてM6 x 60Lとかのボルトを締めるので、M6の規定軸力 4330[N]を出そうとすると、局部曲げで塑性変形してしまいますし、材料が抜けることもあります。 規定軸力表はこちらからどうぞ。ここの技術資料は教科書級です。  東日製作所 ダウンロード 技術資料  https://www.tohnichi.co.jp/download_services そのため規定軸力を出さずに締めるので、緩み止めとして「ばね座金」を使う、ということになります。 でも、そもそもボルト締結体ってこういうのが基本なんですよね。 <図2> しかも通常はヤング率が近い材料同士を前提にしているので、図1なんかは本来のボルト締結体の使い方ではないわけです。炭素鋼のヤング率は200[GPa]ぐらい、アルミ合金のヤング率は70[GPa]ぐらいですから。 で、こういう「基本のボルト締結体」を図1のようなところで使えるように変形するとこうなります。(ボルトと金具は炭素鋼を考えています) <図3> まあ、ごつくてダサいですよね。重いし。 で、アルミ角パイプもエッジ付近はそこそこの剛性があるので、そこを荷重伝達に使えばいいんじゃないか、ということを考えて、小さくします。 <図4> 角パイプに横穴あけないといけないのが面倒ですが、位置決めに使えると考えればよいトレードだと思います。横穴の径が小さいと角パイプが局所的に塑性変形して軸力が抜けてしまうのがちょっと怖いところですが。 で、アルミ角パイプもエッジ付近はそこそこ剛性あるよな、ということで。 図4の金具は角パイプのウェブにフランジ締結体の軸力を伝達したいという話なので、ウェブの近くにボルト・ナットを配し座面の変形を防ぐ厚ワッシャを使い、ウェブの座屈耐力以下の軸力を与えるようにします。 <図5> で、ウェブで使っていない部分があるのでそこにも頑張ってもらうために厚ワッシャを長い金具に替えます。すこし重量が増えますが、作業量とトレードオフですね。 <図6> ただ、図5と図6はM3 x 60Lとかの高アスペクトなボルトを使うか寸切りボルトを切断して使うことになりますし、4つも穴をあけなきゃいけないし、高アスペクトなボルトの曲げを考慮してないので、自分としてはやっぱり図4を推したいですね。 図4は金具つくるのがめんどいかもですが、市販の位置決めピンを使えばボール盤作業だけで済みますし、金具材質を炭素鋼じゃなくアルミ合金にして、普及している卓上CNCフライスを使って作ってもいいと思います。 で、ここまでいろいろと書いてきたわけですけど、角パイプ同士の締結、であれこれ考えるくらいなら自分はこういうの使いますね。25角アルミ角パイプと比べるとちょい重いんだけども。  「ユキ技研 レコフレーム」   http://yukilabo.co.jp/leco_shop/ まあアルファフレームとかミスミとかSUS社とかこういう系列のものはいろいろあるので、アルミ角パイプの代替として検討してみてはいかがでしょう。作業効率は段違いです。あと、25角のアングルは板厚t2.0~t4.0までありますし、これでトラスを組むと場合によっては同じ重量でも全体の剛性があがるので、採用を検討してみるのもいいかもですね。  「白銅 アルミニウム合金」   https://www.hakudo.co.jp/product/aluminum/index.html まあ、自分はロボコンをやったことがないですし、アルミ角パイプを使うのは経験に基づく合理性と必然性があるのだとは思うので、気になった方はきちんと数値を置いてご試算ください。設計においては、数値に基づく用途にあわせた具体性が大事だと思います。 最後に参考文献のご紹介でも。  『トラブルを未然に防ぐ ねじ設計法と保全対策』  https://www.amazon.co.jp/dp/4526072583/  ボルト締結体に必要なことはだいたいこの本に書いてあるのに2500円しかしないという神の紙書籍です。高専や工学部の機械設計法の副読本にしてほしいですね。  『飛行機の構造設計(その理論とメカニズム)(第1版)』   http://jaea.theshop.jp/items/1248629  軽量で信頼性が必要な構造のとっかかりとしてよいし、なんで航空機の構造はそうなっているのか、という「why done it?」が満載でめっちゃ面白いです。ちょっと高いのと入手性があまりよくないのが欠点ですが、航空機の構造以外にも一般に応用できる部分がたくさんあるので、こちらも機械設計法や信頼性工学の副読本にしてほしいです。