切屑堂 kirikuzudo

ブログ: 2019/07/21 フェアリング空調の検討(その4)

フェアリング空調がどういうものか理解するため、串本町のスペースワン社のロケットを題材にフェアリング空調の検討をしてみました。 ようやくフェアリング空調系統に必要な能力推定と具体的な機器選定にうつります。 <吸込空気の条件とフェアリング空調の条件>  空調の条件を確認しましょう。前回、4つの吸込空気条件を挙げましたが、条件1と条件3が他の2つを包含していましたので、2件だけにします。  [吸込空気の条件1]   温度:-2[degC]   相対湿度:47[%]   (乾燥した冬の日)  [吸込空気の条件2]   温度:34[degC]   相対湿度:81[%]   (真夏日)  [フェアリング空調の条件]   温度:20[degC]±5[degC]   相対湿度:65[%]±5[%]  まずは各条件で空気中に含まれている水蒸気量を求めます。水蒸気量は飽和水蒸気圧から飽和水蒸気量を求め、それと相対湿度の積から算出します。(近似的な計算です)  飽和水蒸気圧はワグナー(Wagner)の式で求めます。  ・ワグナー(Wagner)の式   e(t) = P(c)・exp{( A・x + B・x^(3/2) + C・x^(3) + D・x^(6) ) / (1 - x) }    e(t):指定温度における飽和水蒸気圧[hPa]    P(c):臨界圧力 221200[hPa]    T(c):臨界温度 647.3[K]    x:(1 - (t + 273.15))/Tc    A:-7.76451    B:1.45838    C:-2.7758    D:-1.23303    t:指定温度[degC]  上記の式から、それぞれの条件の温度での飽和水蒸気圧は下記になります。   空調条件   :23.4062[hPa]   吸込空気条件1: 5.2812[hPa]   吸込空気条件2:53.2657[hPa]  次に飽和水蒸気量の式で飽和水蒸気圧から飽和水蒸気量を求めます。  ・飽和水蒸気量の式   ρ(w) = ( 216.7・e(t) ) / ( t + 273.15 )    ρw:飽和水蒸気量[g/m3]    e(t):指定温度における飽和水蒸気圧[hPa]    t:指定温度[degC]  上記の式から、それぞれの条件での飽和水蒸気量は下記になります。   空調条件   :17.30214[g/m3]   吸込空気条件1: 4.22068[g/m3]   吸込空気条件2:37.57994[g/m3]  次にそれぞれに相対湿度を掛け算することで、その条件で空気中に含まれている水蒸気量を求めます。すると、下記のようになります。   空調条件   :11.24639[g/m3]   吸込空気条件1: 1.98372[g/m3]   吸込空気条件2:30.43975[g/m3]  最終的に空気中に含まれている水蒸気量を空調条件にあわせなければいけないので、吸込空気条件1では9.26268[g/m3]の加湿が、吸込空気条件2では-19.19335[g/m3]の除湿が必要になります。  送風量は簡単のため、1分間あたり5[m3]、つまり 5[m3/min] とします。すると、1分間あたりの加湿量あるいは除湿量は次のようになります。   吸込空気条件1: 46.313378[g/min]   吸込空気条件2:-95.966775[g/min] <除湿の方法と機器選定>  除湿にはいろいろな方法がありますが、空気を目的の水蒸気量が飽和水蒸気量となる露点まで冷却して、余分な水蒸気を水滴として回収してしまう方法が今回の用途には適していると思います。  目的の水蒸気量は空調条件である11.24639[g/m3]です。飽和水蒸気量がこの11.24639[g/m3]に近い温度は先ほどの飽和水蒸気量の式から12.8[degC]になりますので、この温度まで空気を冷却すれば、除湿ができます。(実際は過飽和するので、もう少し低い温度にするなりしないといけませんが)  吸込空気条件2の空気温度は34[degC]ですので、これを12.8[degC]まで冷却しなければいけません。温度差21.2[K]で、空気の比熱が1.007[KJ/(kg-K)]、送風量が5[m3/min]で空気の密度が1.236[kg/m3]なので、これを全部掛け算して、必要な冷却量は131.93[kJ/min]=2.2[kW]となります。  2.2[kW]であればよくある空冷チラーで対応可能な温度です。今回は オリオン機械 RKS1500F を選定しましょう。冷却水温度5[degC]時に2.5[kW]の冷却能力を持っています。  冷却は熱交換器で空気と冷却水を熱交換して行います。冷却水の流量は市販のポンプで安価に入手できるレンジとして50[L/min]を設定します。熱交換を行った後の冷却水温度は5[degC]から5.63[degC]まで上昇します。  気体と液体の熱交換に用いる熱交換器はフィン&プレートが定番ですが、空気側をCIP洗浄する可能性を考えて、今回はシェル&チューブとします。材質はステンレスでいきます。  熱交換器の総括伝熱係数は液体側と気体側のRe数に依存するのでめんどくさい計算が必要になりますが、参考資料でだいたいこのくらいになるという数値がありますので、今回はそれを使用して省略します。気体と液体の熱交換では10~60[W/(m2-K)]になるとありますので、下側の10[W/(m2-K)]を使います。(水は性能いいほうなので、実際はたぶん30[W/(m2-K)]以上になります)  熱交換器に必要な伝熱面積は対数平均温度差と総括伝熱係数と必要な冷却量から求めます。対数平均温度差は空気の入口温度と出口温度、冷却水の入口温度と出口温度から、15.62[K]となり、必要な伝熱面積は14.1[m2]となります。  熱交換器ですが、今回は 大生工業 TCW-366-2-SCS を選定します。ステンレス製のシェル&チューブです。本来は油圧用オイルの水冷用に使うモデルですが、ちょうどよい寸法と形状だったのでこちらにしました。この型式は伝熱面積が3.3[m2]なので、これを5台並べて使用します。(実際、この伝熱面積であればシェル&チューブ専業の熱交換器屋さんに設計を含めて作ってもらったほうが安いです)  総括伝熱係数をかなり低く見積もってるので熱交換しすぎる場合がありますが、冷却水の流量や温度をおさえてやれば対応できます。  除湿をするために、空気を12.8[degC]まで冷却したので、これを空調条件の20[degC]まで加熱する必要があります。必要な加熱量は先ほどの空気冷却と同じ計算で、0.75[kW]程度になります。  加熱用のヒーターは加湿時と冬場の加熱で使用する加熱量を基準に選定することになりますので、ここでは決めません。 <加湿の方法と機器選定>  加熱した空気中に水をノズル噴霧することで加湿を行います。吸込空気条件1での加湿量は46.313378[g/min]で、噴霧水の流量としては0.046[L/min]となります。噴霧水はスケール付着防止のため、カートリッジ式純水器でイオン交換した純水を使用します。今回は オルガノ G-5 を使用します。加湿用の噴霧ノズルですが、今回は いけうち 1/4M KB 80 09 S303-RW を使用します。噴霧加圧ポンプは流量が少ないので、今回は タクミナ PW60でいきます。  噴霧した水が空気中に溶解するためには蒸発しなければいけません。蒸発に必要な潜熱を空気から奪うことになるため、空気はあらかじめ加熱しておく必要があります。飽和蒸気表から20[degC]における気化潜熱は2454.3[KJ/kg]です。加湿量は46.31[g/min]=0.0077[kg/sec]なので、必要な加熱量は18.9[kW]になります。  また、冬場は低い温度で空気が入ってくるため、単純に空調条件まで温度をあげる必要があります。こちらも前の空気冷却と同じ計算で、温度差が22[K]として、必要加熱量は2.28[kW]となります。  ヒーターの加熱容量として必要になるのは、18.9[kW]+2.28[kW]ですので、少し余裕を見て30[kW]の空気用ヒーターを選定します。今回は 日本ヒーター SAS-330 を選定します。 <清浄度確保の方法と機器選定>  清浄度を確保するためにHEPAフィルタを使用します。今回は Panasonic P-HG610610V0 としました。(5[m3/min]で使用するには少し大きいですが、圧損を抑えるためです)  また、射場は海沿いになりますので、吸込口のプレフィルタとして塩害防止フィルタを使用します。今回は Panasonic P-L8610610V0 とします。 <流速と圧損と配管径選定>  射場の規模から継手部の相当長も見込んだ配管長を100[m]と設定します。5[m3/min]の流量に対して、65A/80A/100A/150Aのそれぞれの流速と圧力損失は下記のようになります。   65A:21.65[m/s]、8.6[kPa]   80A:15.40[m/s]、3.7[kPa]  100A: 9.10[m/s]、0.99[kPa]  150A: 4.30[m/s]、0.16[kPa]  空気輸送の場合の経済的流速は10~20[m/s]で、今回は80Aが適切なサイズですのでこれを選定します。 <送風機の選定>  圧力損失の積算をここで羅列するのもどうかと思いますので、選定結果だけでいきますと、昭和電機 U2S-370 4.5kW 2Pole 200V を選定しました。5[m3/min]時に11[kPa]の静圧が期待できます。機器の圧力損失と配管圧力損失はあわせても8[kPa]程度ですので、十分な能力だと思います。  ------------------------------------------------- 今月はここまでになりますが、機器選定はまだまだ続きます。