切屑堂 kirikuzudo

ブログ: 2018/11/21 架台設計の一例

先日、フォロワーさんの「ベース架台の設計と手配のタイミング」という記事を見かけたので、分野とか内容とかがちょっと違うのですが、自分なりの対処法というか採用している方法を書き留めておこうと思いました。 2014~2015年頃にあきらかに失敗した案件があって、とりあえず客先のご厚意で納品させてもらって案件としては終わったのですが、それからずっと「納期と予算のない2ton級の移動架台はどうやったらマシになるのか」という課題を考えつづけていました。 で、2016年末頃には「やっぱトラックのラダーフレームやな!」という、ある意味で当たり前の回答を得たうえで、幸運にも2017年にはそれを実証する複数の機会に恵まれました。 とはいえ、もちろんトラックのラダーフレームをそのまま作れるわけではないので、入手できるもので検討することになります。 <2017年前半に作成したラダーフレームの図面と写真>
23号線を併走するトレーラーの構造や書籍を参考に、サイドメンバーとクロスメンバーには入手性がよく、価格も抑えられる材料として、軽みぞ鋼を選定しました。また、サイドメンバーとクロスメンバーをつなげるブラケットは等辺山形鋼(アングル)を切断したものを使用しています。 ※参考にした書籍  ・「トラクター&トレーラーの構造」GP企画センター、グランプリ出版、2010年  ・「中国生産・ゼロからのトラック設計指南」大崎喜久著、風詠社、2011年 2017年後半には市販の軽みぞ鋼を切断・穴加工する方法から、 板金屋さんで鋼板をNCタレットパンチで穴加工してもらってからベンダーで曲げて 軽みぞ鋼の形状にする方法に変更しました。 (穴位置がきちんと出るうえに、断面高さや板厚をある程度選べるので) さて、この構成による利点は下記になります。  ・構造の主要部分を溶接せずに済むため、外注さんの溶接作業待ちに時間を食われない  ・溶接部がないので特殊工程!が!ない!(ちょううれしい)  ・キャスターやタイヤなどをブラケットを介して固定するため、   ブラケットを微調整することで水平出しが後から可能  ・軽みぞ鋼を使用しているため、鉛直方向の曲げに対する断面係数だけが高く、   材料も薄いため重量を低減できる  ・すべての面に焼付塗装ができ、塗料まわりこみの検討が不要    ※ブラケット取付面を摩擦で持たせる場合はマスキングやケレンの検討が必要  ・SS400の軽みぞ鋼と等辺山形鋼なので安い  ・軽みぞ鋼の座屈が怖いところはウェブ裏側にt6平鋼をボルト締めしておけばOK  ・穴位置を規格化しておけば閑散期にブラケットを内製してためこんでおける  ・軽みぞ鋼とブラケットの在庫があって塗装手塗りOKなら、   工数ぶちこんで短期間で作ることも可能 逆に欠点は下記になります。  ・ボルトは強度区分8.8以上のものを使わないと本数が多くて煩雑になる   (強度区分4.8のものを使って大変だった)  ・どうしてもボルトの本数が多くなるので、軸力管理が大変   (摩擦調整剤塗布済みボルトとマーキングトルクレンチがあるとうれしい)  ・剛性が低い  ・とくにねじり剛性がきわめて低い  ・共振する振動数がめっちゃ多いので、振動を嫌う機械の固定ベースには向かない  ・ボルトの本数が多いので、ボルトが落っこちるとまずい系の場所では使いづらい   (全てのボルト軸力を降伏域で適切に管理できればいける)  ・等辺山形鋼にたくさんタップを立てなきゃいけないのがたいへんで、   タップ部が構造の信頼性に直結しているので、外注さんで加工してもらって   塗装が終わってきた段階で、検査がてら仕上げタップをしなきゃいけない  ・摩擦調整材が高いのと、ボルトに塗るのがたいへん そんなわけで結構な欠点があるわけですが、板金と塗装さえあがれば2日くらいで主要構造を組めるうえに、断面係数にたいして効かないクロスメンバのお腹部分はけっこう気軽に予備の穴をたくさんあけておけるので、予備穴に内製のブラケットをぺこぺこつけて配置変更もわりとこなせます。 適用レンジとしては、  ・剛性や振動への要求が緩い  ・上物が1ton超える  ・長辺が2mを超える  ・短辺が1mを超える  ・溶接できる外注さんが忙しい時期  ・社内で使える工数がわりとある というあたりでしょうか。 <上物1.5tonを乗せたソリッドタイヤ架台の写真> 長辺が短いものだと等辺山形鋼や角型鋼管を溶接してしまうほうが(溶接の手が空いていれば)絶対に早くて安いですし、剛性や振動への対応は組織が変化しているとはいえ接合部が一体化している溶接のほうが有利なことが多いですから、使いどころが難しい構成ではあると思います。 2017年はこの構造のおかげで乗り切れた感じがあるのでわりと自分でも気に入っていますが、最近は出番がないです。さみしい。 <特に意味はないけど赤枠のところになんかいますね>